2010年11月28日日曜日

パーマカルチャー



Perma Culutre Center Japan :   藤野のパーマカルチャー農園


パーマカルチャーとは、人間にとっての永続的な循環型生活環境を作り出す為のデザイン体系のことである。
環境負荷をなるべく減らして自給自足生活を営むための方法?だという。
こちらの本『パーマカルチャー―農的暮らしの永久デザイン』を読んでみると、農業を始めとして、
家屋のレイアウト、周囲の建築物・自然物の配置、資材の選別方法、エネルギー循環、水の確保、狩猟採集、食料の加工と保存、
有用生物の飼育、排泄物のリサイクル、微生物利用...はては地形の造成など、取り扱う事象は多岐にわたるようである。
たんなる田舎暮らしの指南ではなく、科学的に循環型自給自足を追求しているところが面白そう。

ニワトリの機能分析。

必要とするもの

  • 小屋
  • 砂利
  • 空気
  • 食べ物
  • 仲間のニワトリ

生産性と行動

  • 羽毛
  • 鶏糞
  • メタンガスを出す
  • 炭酸ガスを出す
  • 餌をあさるために地面を引っ掻く
  • 飛ぶ
  • ケンカをする

品種固有の特徴

  • 血統
  • 寒暑耐性
これらの特徴を、人間が楽をできるようにうまく利用する。
  • 後述するチキントラクターで、畑の区画の余計な雑草をすべて除去する。
  • 鶏糞は畑の肥料となる。
  • 育苗用の温室内に放してメタンガスと炭酸ガス、体温で室内を温める。
  • 肉と卵を提供してくれる。
  • ニワトリ小屋は住居と畑の間に設置する。行きは鶏糞を畑に持って行き、帰りは農作物の切れ端を与える。
少しだけ抜粋してみた。
この他にも、

  • 夏と冬の日照角度差を利用して、夏は室内を冷やし、冬は日差しを室内に取り入れる窓枠。
  • 落ち葉などが入らないような屋根の雨樋加工と雨水の集め方。
  • 防風、通気を考えた植林。
  • シャワーの排水、調理の火などからの廃熱を室内に循環させる方法。
など、いろんな事例が載っている。

上記を例として、観察することによって得たモノの構成要素を、他のモノの構成要素とうまく関連づけることが基本である。
そしてあるモノのアウトプットが他のモノのインプットとなるようにものの配置を変え、既存のものを作り替えていくという感じ。
特徴的なのは、人間の生活全般に関わる事すべてのアウトプット〜インプットの流れを循環させようとしていることである。
その中には、当然のこととして廃棄物・排泄物のリサイクル利用が含まれている。
特定の分野の技術や能力を生かせる場所(会社等)で同系統の仕事をやっていくことが都会的な合理性であると定義すると、
パーマカルチャーは逆の意味で合理的な思想を持っているようである。

創立者はタスマニア島出身の漁師であるビル・モリソン氏とデビット・ホルムグレン氏。
オーストラリアでは学校の授業の単位にパーマカルチャーが組まれている。
しかし、もとはといえばビル・モリソン氏のパーマカルチャー発想の原点となったのは、西洋型の非循環型単一農業に疑問を感じて
日本を訪れた時に見た里山文化であったという。




パーマカルチャーセンタージャパン

週末の二日間、パーマカルチャーセンタージャパンの体験講座に参加した。
JR中央線の藤野駅から車で10数分の山の中にある古民家で、ここで年間を通じてパーマカルチャーの講座が催されている。
高度400mにあるので、とても気温が低い。
PCCJ代表理事の設楽清和さんとスタッフのYさん、Gさんが迎えてくれた。
案内していただいた施設には様々な工夫が凝らしてある。
土釜の上に作られた温室、コンポストトイレ、薪で熱する暖炉、廃熱循環の床暖房、など。
農園の散歩と夕食をごちそうになった後、ニュージーランドのレインボーバレーファームのドキュメンタリ映像が上映される。



朝の散歩の時にみかけた神社。
空気が透きとおっていて気持ちがよい。
この神社の舞台は地元のアーティストのライブにも利用されるという。
歌手のUAさんも藤野在住で、たまに出演するとかしないとか。



PCCJのキッチンには保存用に加工された食物を入れたビンが壁一面に並んでいた。


紅葉が美しい。
藤野は湖と里山の街。
この時期には街は紅葉の山々に囲まれる。



PCCJのパーマカルチャー農園。
変った形をした畑が並ぶ。
一般的な直線の形をした畝は見当たらない。
パーマカルチャーの農園では、畝に曲線を多様する。
これにより、畝と通路に細かい境界線が多数生まれ、微気象の変化に寄って様々な植生が生まれる。

すべての通路に段ボールを敷き、近所の木工所でもらってきたオガクズを盛ってある。
歩きやすくなるとともに、段ボールを好んで食べるミミズの働きで通路そのものが堆肥となっていく。



移動式チキントラクター用の囲い。
といっても電動ではない。
この中にニワトリ数羽を二日間入れておくと、囲いの中のすべての雑草を食べ尽くし、餌をあさって土をほじくり返し、耕してくれる。
糞はそのまま肥料として利用する。



写真では解りにくいが、畝の周りには一定間隔でネギを植えてある。
地中のセンチュウを抑止する働きがある。
マルチとして畝全体に10数センチほどの厚さで落葉が盛ってある。
土は微生物の塊なので、基本的に紫外線にはさらさない方がよいらしい。
また、地中の水分は陽が昇るとともに水蒸気となってすごい勢いで蒸発していく。
落葉マルチは水分蒸発を防ぐ役割もある。

ふかふかの土を手にとって匂いを嗅いでみると、まさしく森の匂いがした。
これは土の中の有効菌が発する匂いである。
もとは粘土質の土だったそうだけど、7年ほど工夫を凝らして土つくりを続けた結果、このような上質の土に変っていったという。



講座の塾生が作った保存室。
材料はとても安価。
土嚢とモルタルでできていて、室内の温度を一定に保つ。
天井には白い屋根板が張ってあり、日中の太陽光を跳ね返す。
入り口は北を向いており、日光が室内に入りにくくなっている。



夕食の後にパーマカルチャーについてのディスカッション。
理事の設楽さんとスタッフのYさんはビル・モリソン氏に師事していたこともあるそうだ。
とてもきさくな方達で、酒を呑みつついろんな事を話した。

パーマカルチャーをどのように生活に取り入れるかはやる人次第で、決まった回答は用意されていない。
地方の山奥に籠って本格的にやる人。
マンションのベランダで完全有機栽培を目指す人。

常にモノを循環させていく生活の中で唯一の永続的なるものは太陽エネルギーであり、
それによって、地球に気象が生まれ、大気が循環し、様々な植生が生まれ、多様性が維持される。

ソ連解体時にロシアがパニックに陥らなかった理由は、首相から一般家庭の家のほとんどに農地があったからだとか。
外部経済に依存した生活形態は安定には遠いことであるとか。

自分の生活を振り返ってみると、なにかしらの外部要素に依存していないものを探す方が困難である。
太陽と空気ぐらいだろうか。

ビル・モリソン氏についての話も出た。
ビル氏いわく、

パーマカルチャーの究極の目標は世界中を森にすることだ。

とのこと。
その言葉はとてもアナーキーである。
ビル氏本人はそれを体現しているような方で、いつも裸足で歩いているので足の裏の表皮が数センチにもなってしまって、
人間の腕くらいの太さの木の棒をひと蹴りで割ってしまうらしい。
野人のようなお方である。

*

人工物に囲まれた生活空間の中では、自給自足などイメージするには余りにも遠い。
農業技術などなにも知らないのに、広い農地の前で立ち尽くしている自分。
畑を荒らすイノシシと奮闘している自分。
コンポストトイレから堆肥化した排泄物をかきだしている自分。
食べるものといえばコンビニ、ではなくて畑からという発想をしている自分。
月10万円で暮らしている自分。

毎日なにかしらの予想できない新しいトラブルが発生し、なんとか乗り切ろうとしていると、
1日があっという間に過ぎてしまうらしい。
しかし必要なこと自分のためだけに使っているので、精神的なストレスはあまりなさそうである。
もし自分がやるとしたら、そのような困難を乗り越える事ができるだろうか。
やる人は、可能かどうかの結論を出す前に踏み出すんだろうな。



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